象の脱走
今回ご紹介するエピソードは、50年以上前に上野動物園であったお話です。
当時インティラという名前の象が、
一緒に暮らしていたジャンボという象と喧嘩してしまい、
そのまま入園者側の観覧通路に出てしまったのです。
昭和42(1967)年の今日、アジアゾウのインディラが同居していたジャンボとケンカをして、運動場から堀に突き落とされてしまいました。インディラは手すりに鼻を巻き付けて体を引き上げ、なんと入園者側の観覧通路に出てしまったのです。
— 上野動物園[公式] (@UenoZooGardens) March 14, 2017
園内はただちに緊急体制がしかれましたが、インディラはゾウ舎に戻ってくれません。やがてマスコミのヘリコプターが低空で旋回をはじめ、インディラはその音で興奮してきました。ゾウが暴走したら大変な事故になってしまいます。飼育係のだれかが言いました。「そうだ、落合さんだ!」
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やがてマスコミのヘリコプターが近づいたことで、
さらにインティラは興奮してしまい、
飼育員の言うことも聞いてくれなくなってしまいました。
その時1人の飼育員が、ある1人のベテラン飼育員の名前を口にします。
休職中のベテラン飼育員
その飼育員の名前は、落合正吾さん。
過去にゾウ飼育班長を勤めていたベテランの飼育員で、
その時は病気のために休職していました。
落合さんは事情を聞くと寝巻きのまま動物園に向かい、病気中の人とは思えない声で、
インティラの興奮をあっという間に沈めてしまったのです。
落合正吾さんはゾウ飼育班長でベテラン飼育係でしたが、病気で休職中でした。アドバイスを聞こうと飼育係員が自宅に行くと、「よし、すぐ行く!」と落合さんは寝間着のまま、とめる声も聞かずに動物園に向かいます。
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ゾウ舎に着いた落合さんは、病人とは思えない声で「インディラ、ダメじゃないか。戻るんだ。」と一喝。とたんにインディラの興奮がおさまって目がおだやかになりました。「よし、良い子だ。さあ、帰るぞ。」落合さん到着がら10分もしないうちに、インディラは無事に収容されたのです。 pic.twitter.com/YLbqvIsPs8
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実は落合さんは重度の胃ガンで、8日後の3月22日に54歳で亡くなりました。混濁する意識のなかで、いとおしそうに「インディラのやつ…」とつぶやいていたそうです。
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この時の落合さん、実は重度の胃ガンに犯されており、
すでに余命も僅かでこの出来事の8日後に天国へと旅立ってしまいました。
病に蝕まれ苦しい状況の中、
それでも一緒に過ごしてきた1頭の象のために、立ち上がってくれたのです。
その後のインティラ
2012年頃に放送されたFM FUKUOKAのラジオ番組
『ヒューマンストリート』によるとその後のインティラは、
ちょうどこの時に落合さんが来たのと同じくらいの時間になると、
その方向を見つめ、耳をすましてじっと待つようになったそうです。
そして落合さんが亡くなった16年後、
インディラは上野動物園にて49歳で息を引き取りました。
最期の最期まで、インディラを想った落合さん。
そして、落合さんに会った途端に大人しくなったインディラ。
ふたりの深い絆を感じるエピソードでした。